北海道大学総合博物館第8回公開シンポジウム

深海魚の多様性

総合博物館・大学院水産科学研究科共催


2003年12月10日(水) 午後1:00−4:30

北海道大学函館キャンパス 第2研究棟1F特別講義室



深海魚−特殊な環境に適応した生物たち−今村 央(北海道大学総合博物館)
世界のへラザメ属魚類の多様性仲谷一宏(北海道大学大学院水産科学研究科)
深海の釣師・アンコウ目魚類の多様性島崎光臣(北海道大学大学院水産科学研究科)
ソコダラ科魚類の多様性遠藤広光(高知大学理学部)
北太平洋産の深海性クサウオ科魚類の多様性Dmitry L. Pitruk
(ロシア科学アカデミーウラジオストク海洋生物学研究所)

総合司会:今村 央(総合博物館)・矢部衞(大学院水産科学研究科)




深海魚―特殊な環境に適応した生物たち― (基調講演)
今村 央(北海道大学総合博物館)

 深海とは一般に水深200m以深の水域のことを指すが,生活史によって生息水深が異 なったり,垂直移動を行う種もあるため,深海魚を厳密に定義するのは難しい.成魚 の生息水深が主に深海域にある魚類が「深海魚」の目安である.本講演では深海を以 下の4つの層に区分し,それぞれの環境に生息する深海魚を解説する.
 中深層:水深200mから700〜800mの範囲.夕暮れ程度の明るさとなり,植物によ る光合成は行われなくなる.光が届くため,発光器を持つ種や眼が発達した種が多く 生息する.遊泳層にはヨコエソ,ムネエソ,ハダカイワシ類などが,底帯にはアオメ エソ,キンメダイ類などが生息する.
 漸深層:水深700〜800mから3000mの範囲.1000m前後で光が届かなくなる.遊泳 層にはフクロウナギ,チョウチンアンコウ類が,底帯にはソコダラ,クサウオ類など が生息する.
 深海層:水深3000mから5000〜6000mの範囲.生息する魚類はヨロイダラ,シンカ イヨロイダラ,ヨミノアシロ,タウマティクテュス科の一種など少数の種類に限られ る.
 超深海層:5000〜6000m以深.シンカイヨロイダラ(6500m),クサウオ科の一種 (7600m),ヨミノアシロ(8000m以上)などのごく限られた種類が知られているにす ぎない.

オニキンメ Anoplogaster cornuta (Valenciennes)


世界のヘラザメ属魚類の多様性
仲谷一宏(北海道大学大学院水産科学研究科)

 ヘラザメ(属)類は軟骨魚類メジロザメ目トラザメ科に属する小型の底生性サメ類 である。その生息水深は500メートルから2000メートルの深海に及び、極海域を除く 全世界の陸棚斜面や海嶺域などに分布している。
 ヘラザメ属はサメ類中で最も種類が多いが、深海性のために分類学的に最も混乱し たグループでもある。演者は以前より世界のヘラザメ類の分類学的再検討に取り組 み、ヘラザメ類が少なくとも2群からなることを明らかにし、そしてヘラザメ属に 32種を認めた。しかし、同時に数多くの未記載種の存在も明らかになっている。
 また、日本やニューカレドニアに分布するテングヘラザメを調べたところ、外部生 殖器(交尾器)の有無では、オスメス比が19:1であった。一方、内部生殖器官を調 査したところ、その85パーセントが雌雄同体で、その機能性からはオスメス比は1: 1であった。サメ類の雌雄同体現象はまれに報告されるが、その全てが異常現象とさ れている。しかし、このテングヘラザメでは時空間的に隔たった個体群でも同様な傾 向が見られるため、この雌雄同体は正常な雌雄同体現象と考えられる。
 以上のような観点から、深海性のヘラザメを例に、その多様性の一端をご紹介する。

ニホンヘラザメ Apristurus japonicus Nakaya


深海の釣師・アンコウ目魚類の多様性
島崎光臣(北海道大学大学院水産科学研究科)

 アンコウ目魚類は世界中に分布し、主に深海域に生息する底生性もしくは浮遊性の 魚類で、現在までに5亜目18科約300種が知られている(Pietsch and Grobecker, 1987; Nelson, 1994)。本目魚類は胸鰭の射出骨が伸長すること、腹鰭が胸鰭より前 方に位置すること、管状の鰓孔が胸鰭基部の後方に開口すること、肋骨がないことな どで特徴づけられるが、そのうち最も顕著な特徴として頭部背面に誘引突起 (illicium)を持つことが挙げられる。誘引突起は背鰭棘とその担鰭骨が変形した特 殊な器官で、先端にエビや小魚などに似せた擬餌状体(esca)を持ち、これを動かし て餌生物を誘引するという極めて特異的な捕食行動をとる。チョウチンアンコウ類で は特にこの器官が発達しており、大半の種がバクテリアを共生させた発光器を有する 擬餌状体を持つ。この誘引突起と擬餌状体は科・属・種ごとに多様な形態を呈するこ とから、本目魚類の重要な分類形質にもなっている。一方、本目の系統類縁関係に関 する従来の研究は比較的少ないが、近年ではPietsch and Grobecker (1987)が推定し た類縁関係が広く知られており、これによると浮遊性のチョウチンアンコウ類は底生 性のアカグツ類から派生したグループであるとされている。 本講演はアンコウ目内の各亜目魚類とその形態学的特徴を紹介するとともに、最近の 研究で新たに得られた、従来とは異なる系統類縁関係を提示する。

ユメアンコウ Oneirodes bulbosus Chapmann


ソコダラ科魚類の多様性
遠藤広光(高知大理)

 ソコダラ科魚類は,タラ目最大のグループで,現在約40属350種あまりが知られて いる.本科魚類は,北極海の一部を除く世界の大洋に分布し,水深150mの大陸棚から 水深6,500mの大洋底上に生息し,また一部の種は中深層に出現する.
 本科の系統類縁関係,初期生活史や生態は,一部のグループを除き十分に解明され ていない.特に,Alevin と呼ばれる仔魚は,科内のおよそ10%の種について知られ るのみである.この時期には,成魚と同様の体型と特有の「うちわ」状の胸鰭をも つ.ソコダラ亜科ホカケダラ属の初期生活史では,成魚の生息水深帯で産み出された 卵は,水深200mあたりまでゆっくりと浮上し,孵化する.その後,コペポーダ類な どの餌の豊富な中深層上部で摂食しながら成長し,次第に成魚の生息水深帯へと降下 することが知られている.
 本科の種多様性は,深海域へ適応した生活史の進化,分布域と生息深度の拡大によ る種分化に起因する.また,種間における体サイズや形態的な多様性には,様々な異 時性の関与も予想される.本講演では,ソコダラ科魚類の多様性について,最近の知 見を織り交ぜて紹介する.

シンカイヨロイダラ Coryphaenoides yaquinae Iwamoto & Stein


北太平洋産の深海性クサウオ科魚類の多様性
Dmitry L. Pitruk (ロシア科学アカデミーウラジオストク海洋生物学研究所)

 クサウオ科はカサゴ目に属する北部太平洋における優占群の一つで,世界の海洋の 潮間帯から超深海にかけて生息する.本科魚類の研究は18世紀から行われてきたが, 体が柔軟で計測しにくい,鱗など多くの部位が消失しているなどにより,研究は十分 には進んでいない.その一方,本科魚類の種内変異と種間変異は極めて大きい.
 これまで世界から26属約330種のクサウオ科魚類が報告されているが,その半数 (16属約145種)が北部太平洋で記録されている.これらのうち,クサウオ属 Liparis(56種中45種 [約80%]),コンニャクウオ属Careproctus(103種中53種 [約 52%]),インキウオ属Paraliparis(108種中20種 [約19%])およびセムシクサウオ 属Psednos(30種中4種 [約13%])の4属の順に種数が多い.その逆に,この順に特 化形質が多くなる傾向にある.
 深海性クサウオ科魚類は多数のユニークな形態を持つ.コンニャクウオ属,インキ ウオ属,Elassodiscus属の数種ではカニ類の鰓腔に産卵するための特殊な産卵管を持 つ.オオバンコンニャクウオSqualoliparis dentatusは他の本科魚類には見られな い、アブラツノザメのような歯を備える.また,最も形態的変異に富むグループはコ ンニャクウオ属とその近縁群である.

ヒガシコンニャクウオ Careproctus melanurus Gilbert (よく発達し た産卵管に注目)


問い合わせ先:
北海道大学大学院水産科学研究科水産資料館
〒041-8611 函館市港町3丁目1-1 Tel/FAX 0138-40-5553
e-mail: fish-mus@fish.hokudai.ac.jp


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