第2回総合博物館公開シンポジウム

アジアでは莫大な恐竜化石が発掘され、それらの成果は世界の恐竜研究を大きく書き換えつつあります。日本でも最近多数の恐竜化石が発掘され、また海外発掘に協力するなど、以前に比べると、“恐竜学”への貢献は飛躍的に増大しつつあります。このような成果を踏まえ、国際学術シンポジウム「アジアの恐竜研究・現状と将来展望」を平成12年2月26日(土)午後に学術交流会館で開催し、67名の参加者がありました。

小泉格(館長)による北海道大学総合博物館の設立経緯と外国人研究員デイヴィッド・ワイシャンペル客員教授を中心とした恐竜学に関するシンポジウムが盛会であることを期待するとの開催挨拶の後に、個別講演に移った。
鈴木大輔・箕浦名知男・David Weishampel は日本竜 Nipponosaurus sachalinensis Nagao, 1936 の再記載と系統的位置について、標本の精密な再クリーニングと綿密な観察の結果、化石骨格は(1)いくつかの特徴的な形質をもつことから有効な種であること、(2)幼体であること、(3)系統解析からランベオサウルス亜科に属する Hipacrosaurus に近縁な恐竜であること、(4)ランベオサウルス亜科の多くが北米に由来することから、ベーリング陸橋を通ってアジアに渡ってきたことが示唆される。
  長谷川善和・真鍋真・早川浩司は白亜紀後期の日本の恐竜について、日本における40個体に及ぶ中生代大型爬虫類化石のそれぞれについて研究の現状を、特に最近の“恐竜”化石の産出例について詳しい研究状況を述べた。
平山廉は白亜紀陸棲脊椎動物の古生物地理について、白亜紀恐竜のみならず、特に亀類の古生物地理学的研究から、白亜紀後期のアジアと北米が同一生物地理区に属していた可能性の高いことを示した。これらの多くは白亜紀前期のアジア起源のものがベーリンギアを越えて北米に移住したものと考えられる。一方、南半球のゴンドワナ地域とは際立った差異が認められるが、白亜紀末になると北半球と南半球とは共通となり、新生代の陸棲脊椎動物群の生物相の成立過程に影響を及ぼしている。

渡部真人はモンゴル・ゴビ砂漠における白亜紀恐竜動物群の多様性と進化−アジアにおける最も恐竜化石の豊富な地域の例−について述べたが、過酷な自然環境から発掘作業は困難なことが多いとした。一般にアジア産の恐竜には最も原始的な形態のものが多いが、モンゴル産のものは特にその傾向が強い。
デイヴィッド・ワイシャンペルはアジア産の恐竜化石による恐竜学の飛躍的進展−鳥脚類恐竜の例−について述べた。中国やモンゴルを主とするアジアは三畳紀から後期白亜紀までのあらゆる時代の恐竜化石を最も多産する地域であること。これら恐竜の多くはそれぞれの種類の最も原始的な形態のものが多く、アジアが多くの恐竜の系統発生の起源的な地域であることを示唆しているが、草食である鳥脚類恐竜の系統進化はアジア産のものが仮になかったとしても一般的な系列で明らかにすることができるため大きな変化を示すことはないとした。しかし、一方、鳥脚類恐竜の移動・分散・絶滅を研究する上でアジア産の化石は必要不可欠であるとした。
江木直子はハドロサウルス類の上腕骨の形−形態比較と運動行動推定−について、成長段階の異なった30個体以上のハドロサウルス類の上腕骨の形態を比較検討した結果、大きく2つの形態の違いが認められたことを述べた。これらの形態の違いは前脚の動かし方の違いに帰結できることからハドロサウルス類には生活行動の違いによって大きく分けて二つのグループのあることが示唆されることを指摘した。
瀬戸口烈司は恐竜の行動の復元の妥当性について、恐竜研究者は現生の各種動物になぞらえて恐竜の行動や生活の復元を行っているが、爬虫類である恐竜の復元には現生の爬虫類の正確な機能や生活との比較に基づいて復元をしなければならないとした。爬虫類の脳や感覚器は哺乳類や鳥類とは根本的に異なっていることを忘れてはならないこと。例えば、表情を示す顔面神経も皮膚も爬虫類にはありえないにもかかわらず、あたかも表情を持つかのごとき復元は間違っていること。また、爬虫類の聴覚機能には音を聞く機能はないにもかかわらず、鳥脚類恐竜のいわゆる“とさか”を発声器と考えるのは根本的な間違いであることなどを述べた。

文責:箕浦  


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