大学院共通授業「博物館学特別講義II 展示、教育、活動評価」

  • 第1回 4月 6日

    担当教員:湯浅万紀子

     本日のオリエンテーションでは、授業計画と授業のゴールが説明された。授業のゴールとは、各種博物館の展示の制作、教育プログラムの運営、活動評価について理論と実際を学習し、活動展開の現状を理解し、その課題を考察すること。授業の後半で実施する北大総合博物館の来館者調査とその分析においては、グループワークを実施し、大学博物館への理解を深めるだけでなく、コミュニケーション能力とディスカッション能力、プレゼンテーション能力を習得すること。そして、これらの実践と考察を通して、博物館活動に限らず、自己の活動を検証し改善点を見出す自己評価の視点を得る機会とすることである。総合博物館に関連した他の講義や演習についても紹介され、この授業は後期に開講される「博物館特別講義I 学術標本・資料学」のシリーズであることも説明された。

  • 第2回 4月13日

    担当教員:佐々木亨・湯浅万紀子

     最初に湯浅先生より、この講義全体のスケジュール等について説明していただき、次に佐々木先生から、佐々木先生、湯浅先生が担当される来館者調査に関して説明していただいた。この来館者調査は、文学研究科の展示制作プロセス演習でリニューアルした科学技術展示室について、リニューアル前を比較しどのような変化が得られたのかを検証するために行うものである。
     まず、教室で展示リニューアルの経緯や昨年度行った来館者調査の概要や分析結果、また、実際に調査を行う際の注意点等について説明していただいた。この来館者調査では、来館者の導線を追ってどのように展示を見ているのか、どの展示に引き付けられているのかを測定するトラッキングという手法を用いる。また、その内の数件についてはインタビュー調査も行う。その後、実際に科学技術展示室に移動し、昨年度のリニューアルによって導入された新コンテンツを確認し、2人1組でトラッキング調査のデモンストレーションを行った。
     私は昨年度の科学技術展示室のリニューアルに携わっており、自分の関わったリニューアルによってどのように来館者の導線が変化するのかを自分で調査、評価を行うことができるということは非常に貴重な経験であると感じている。この授業での調査結果を今年度のリニューアルにも活かしていくことができればと思う。
     (文学研究科歴史地域文化学専攻修士1年 北越美紀子)


  • 第3回 4月20日

    担当教員:小林快次

     今回は、以前福井県立恐竜博物館で学芸員として勤務されていた、小林快次先生からお話を伺った。講義内容は、博物館の事業の中の4本柱(展示、研究、標本、普及)を概観した後、特に「展示」の分野について重点的に扱うものだった。
     小林先生には、恐竜博物館で実際に担当されていた展覧会の資料をもとに、企画展や常設展の準備、展覧会の運営に関するお話を伺った。展覧会のテーマや全体の予算、会期などがどのような根拠のもとで決められ、どのような過程を経て準備が進められていくのか、またどういった体制で展覧会を開催するのかなどを、大学博物館で働かれる研究者と学芸員の両観点からお話していただき、大変興味深かった。
     限られた時間と資源の中でどのような質のものを準備し、来館者に提示するのか、そもそも展覧会を開くこと、博物館を存続させることには意味があるのか…このような、学芸員を志す者にとっては決して見て見ぬふりをしてはならない「博物館の存在意義」について、深く問われる時間だったと思う。こうした問いに答えていく中で、将来自分がこうした仕事に関わる際、核となるようなモチベーションや使命感を、少しずつでも確立していければと思う。
    (文学研究科思想文化学専攻修士1年 山田今日子)


  • 第4回 5月11日

    担当教員:小林快次

     前回の小林先生の講義は、展覧会の企画・運営面から博物館活動を知るといった内容であったが、今回の講義では、教育・普及・広報という面から博物館活動を理解するという点に主眼が置かれていた。
     小林先生はまず、教育活動は効果測定が非常に難しいことに加え、公共施設という性格上、税金に対する責任というものが常に付きまとうことを話されていた。この現状を踏まえ、どのような教育活動を行えば博物館として正解かという問題提起をされ、学生一同、考えなければならないことが多かった。
     また、小林先生は、博物館の評価の基準が、入場者数や歳入に重点が置かれている現状に疑問を感じておられた。小林先生の言葉を借りるならば、博物館活動には納税者の「目に見えてわかりやすい結果」が求められているとのことであった。しかし、安易にその結果を求めようとすると、博物館は教育活動を重視すべきであるのに、経済効果の方を重視してしまい、集客性を第一とした展示にのみ焦点が当たり、地味だが学問的価値のあるものが展示から淘汰されてしまうという状況に向かうことを小林先生は危惧なされていた。
     事業仕分けなど、昨今、文化事業への風当たりは強くなっている。学芸員を目指す身として、この問題を真剣に考えていかなければならないと感じた。
    (文学研究科思想文化学専攻修士1年 青井拓也)


  • 第5回 5月18日

    担当教員:石森秀三

     以前、国立民族学博物館に勤務されていた石森先生の第一回目の授業は、自己紹介のあと日本の博物館の現状の講義から始まった。次に米国と英国におけるそれぞれの「21世紀の望ましい博物館」の考え方と日本との比較で、日本の博物館改革の必要性が説明された。そして、オルタナティブ・ミュージアム(もう一つの博物館)の国内外の事例を通じて博物館の新たな取り組みについて紹介していただいた。最後に、博物館の文化資本としての位置づけを認識し、学芸員は博物館だけでなく政治・社会にも目を向けることが重要であり、現状を改善しようとする意識が必要だと説かれた。
     学芸員を目指す者、あるいはそうでなくとも、日本における博物館の在り方を、広い視野から考えなおす機会になったと思う。
    (文学研究科歴史地域文化学専攻修士1年 中川理絵)

  • 第6回 5月25日

    担当教員:石森秀三

     先週に引き続き今回の授業では、石森先生ご自身も勤務経験のある民族学博物館に焦点を絞り、主に欧州を例にしてその歴史的展開を追った。ここで我々は、民族学博物館設立の背景には、西洋社会と非西洋社会との間の略奪の関係を示す「世界システム」と呼ばれるものが存在することを学んだ。
     先生は、いわゆる「未開」の社会であるサタワル島でのご自身の実体験を交えながら、我々が「未開」と呼ばれるものに対して抱く誤った価値判断、そこに内在する自民族中心主義(エスノセントリズム)の危険性を指摘された。
     民族学博物館には「帝国主義の産物」というマイナス面があるからこそ、現在その在り方が問われている。先生は話の要所で現地に足を運ぶ重要性を力説されていたが、まさにこの話の例として挙げられた博物館がある都市を訪れる機会があるので、これを機に是非とも民族学博物館の現状をこの目で見て確認してこようと思う。
    (文学研究科思想文化学専攻修士1年 川岸真由子)


  • 第7回 6月1日

    担当教員:石森秀三

     石森先生の講義の3回目かつ最終回である今回のテーマは「民族学博物館は不要か?」。
     最初に、海外の代表的な民族学博物館についてのビデオを視聴した。取り上げられたのはオランダ・熱帯博物館、メキシコ・国立人類学博物館、フィジー・国立博物館の3館。どれも実際の展示や学芸員のインタビューが収録されており、貴重な内容であった。民族学博物館が旧宗主国・開発途上国それぞれの立場において、自分たちのあり方を模索する様が伝わってきた。
     次に、先進諸国の民族学博物館の役割の変容について述べられた。従来は貴重品を一方的に展示するのが中心だった。現在は今日的な課題を取り上げたり、展示者−非展示者−来館者の相互交流を行う「フォーラムとしての博物館」へと移っているという。
     また、文化多様性の重要さが叫ばれている9.11テロ後の時代の中において、民族博物館が果たす役割も取り上げられた。人間や文化の安全保証や米国アクチン・ヒムダクに代表される「結衆の原点」としての役割の他、文化資本としての博物館の重要性も示された。先生が強調されたのは、博物館は経済的な利益よりも、社会的福利・便益を生み出す場であるということだった。感動や豊かな人生のヒントを得られる博物館にこそ、「無用の用」の重要性があるという言葉に、非常に共感した。
     今回は現代世界の情勢とも密接な関連のあるお話であり、考えさせられる内容であった。これからも民族学博物館が、人々の眼を世界の現実へ、文化多様性や人間の安全保障の実現へと向けさせ、そして個々人はこのような現実と理想の前で何ができるかを考えさせる場であってほしいと感じた。もはや知らないでは済まされない。
    (理学院自然史科学専攻修士1年 沼崎麻子)


  • 第8回 6月8日

    担当教員:佐々木亨

     今回は、第2回授業以後各自で調査を進めていた博物館来館者調査に関する授業を行った。最初に前年度の調査報告のパワーポイントを見た上で、各自持ち寄った調査サンプルを分析するための班を3組編成した。A班は、調査サンプルの属性(年齢、性別等)を集計し、分析、図示化を行う。B班は、行動パターン(導線、滞在時間、ストップポイント等)を集計し、分析、図示化を行う。C班は、インタビュー調査のコメントの分析を行う。班分け後、早速各班に別れて調査サンプルの集計、分析作業を開始した。これらの作業は約一月後の7月13日までに終了する予定である。
     以上の調査サンプルの集計、分析を行うことで得る調査結果をもって来館者が展示室で、実際にどのような行動をとっているのか、来館者がどの展示物に興味を示しているのか、また、展示物に対してどのような感想を抱いているのかを確認し、3月にリニューアルしたコーナーを含め、現状展示の問題点を明確に把握する。そのことで改善案を提案し、今後の展示室リニューアルに活かせればと思う。
    (文学研究科歴史地域文化学専攻修士1年 佐々木慎祐)


  • 第9回 6月15日

    担当教員:小林快次

     前回の5月11日に続く3回目の小林先生の講義は、博物館におけるアンケートの活用についてであった。来館者数だけでなく来館者の満足度、つまり博物館の質を評価するために、また博物館の現状を客観的に見て、将来の展示を考える上でもアンケートはとても有用なものであることを教えていただいた。
     アンケートを取る場合、多様な来館者の意見が得られるように内容と設置方法を工夫する必要があること、博物館の方針と照らし合わせて結果を展示に反映させることが大切だと話されていた。集計方法には単純集計とクロス集計の2種類があり、2つの項目を組み合わせて集計するクロス集計からは来館者の全体像を見ることができることをグラフなどで示されていた。
     今回のお話を伺って、私たちの取ったトラッキングデータとアンケートからはどんな情報が得られるのか、その分析結果がさらに楽しみになった。展示を客観的に捉えなおし、今後来館者により満足してもらえるにはどうすればよいのかを考えていきたい。
    (文学研究科思想文化学専攻修士1年 田中有沙子)


  • 第10回 6月22日

    担当教員:鈴木幸人

     今週から文学研究科の鈴木幸人先生による講義が始まった。全3回のうち第1回目である今回は、先生が北海道美術館学芸員研究協議会発行の「NORTHERN OWLS」に寄稿された各論「日本美術の評価における 美術館の役割」を読みながら、美術館や博物館の仕事・役割について考える回となった。
     学芸員は常にコレクションの不足を訴えるが、不足しているから良い展示ができないということではなく、作品の未だ知られていない側面に着目して新たなコンテキストに作品を並び替えることが学芸員に求められているのである。先生が以前勤務されていたという大阪市立美術館(以降大阪市美)の基本姿勢は、大阪市美ならではの展示を考え、巡回展を「受け入れる」のではなく「作る」ことに力を注ぐということであった。博物館や美術館に務める学芸員、および指定管理者や事務方は館としてとるべきスタンスをもう一度見直してみる必要がある。
     学芸員を目指している学生として、どのように目的意識を持つべきかが重要であると考えられる。博物館や美術館はそれぞれが使命をもっていること、単なる観光施設に収束してはいけないことを十分に理解し、与えられた仕事をただこなすのではなく、何のために誰の方を向いて仕事をするのかを常に念頭に置いておかなくてはならない。
    (教育学院教育学専攻修士1年 桜庭那々美)


  • 第11回 6月29日

    担当教員:鈴木幸人

     鈴木先生の二回目。今回は鈴木先生が書かれた「“展覧会的知”ということ―美術館をめぐる対話のための前提、私案」『熱風』(2006年4月号)や、展覧会の実例として鈴木先生が学芸員時代に手がけられた「円山応挙」展(会期2003年9月〜2004年3月)を参考に、我々は鈴木先生の展覧会に対する姿勢を知ることができました。
     日本の特別展覧会は、仏像の出開帳や、お茶会などの伝統を引いていると述べ、なかでも、特別な場所で美術作品と出会うという部分が、日本人にとって特別展の有難さを引き起こす要因ではないだろうかと鈴木先生は考えているそうです。また展覧会を企画する際には、作品の置かれる高さや並べ方、照明の当て方など、どのように展示室を演出すれば、作品と鑑賞者の出会いの場を作ることができるのか、そして、いかに鑑賞者の知性や感性を刺激することができるのかということを学芸員は考え、展覧会を構成するべきであるとされました。
     しかし、より良い出会いの場をめざして作品と鑑賞者のために様々の工夫をするにしても、どこまでが「展覧会」として行うべきものなのかという問題があることを鈴木先生は指摘されました。応挙展にてお寺の室内を模した再現展示を行ったことを例に挙げ、再現展示により応挙の作品制作の構想を鑑賞者に示すことができて良かったという一方で、現地に行けば見ることができるものをわざわざ美術館にて見せる必要があったのか、さらには展覧会としては大きな逸脱があるのではないか…、というような疑問も浮かんできたことがきっかけだったそうです。
     授業の最後で、先生は展覧会というメディアをどのように捉え、活用していくべきなのかということをいつも考えていると述べ、我々にもそのことを考えてほしいと語られました。今回の講義を通じて、展覧会とは、会期が終わればそれで終わりではなく、ことあるごとに振り返り反省していくものだということに気付かされることとなりました。
    (文学研究科思想文化学専攻修士1年 青井拓也)


  • 第12回 7月6日

    担当教員:鈴木幸人

     今週は文学研究科の鈴木幸人先生の最終講義であった。前半は先週から続きで、先生が大阪市立美術館時代に手がけられた「フェルメール展」、「円山応挙展」、「天神さまの美術」における様々な裏話の紹介であった。その際、展示会と催事は展示内容と密接にリンクした内容でやるべきであり、催事を客寄せパンダにするべきでない、という先生の言葉が強く印象残っている。余談であるが、今回私がこの報告を書いている理由は天神さま=菅原道真と誕生日が一緒だからである。
     後半は、日本ミュージアム・マネージメント学会会報に寄稿された毎日新聞大阪本社総合事業局事業部 高市純行氏の「都市とメディアとミュージアム」という論文を読みなが ら、メ ディア側からの視点での展覧会事業について考えた。社会教育施設として博物館がある一方で、メディアの事業として展覧会が開催される。この博物館側とメディア側のズレと先生が最後に残した「文化で金儲けはできない」という言葉を意識しながら展示について考える必要があるのだろう。
    (文学研究科歴史地域文化学専攻修士1年 佐々木慎祐)


  • 第13回 7月13日

    担当教員:佐々木亨、湯浅万紀子

     今回は、第8回目の授業で課題となっていた博物館来館調査の分析結果の報告であった。
     来館者の属性、行動パターン、インタビュー内容が主な分析内容である。来館者の属性(年齢、性別など)は昨年と比較してほとんど差がなく、来館者層が一定であることが分かった。一方で行動パターンには大きな変化があった。科学技術展示室の滞在時間が長くなっており、3月に行った展示リニューアルの効果が出ている結果になっているのではないか。インタビュー内容の分析に関しては、分析方法の知識不足があり、再考が必要である。来館者調査の分析報告を見ると、自分が予想していた通りのこともあるが、意外な結果もあった。現状を正確に把握するために、数値化することの重要さを実感した。
     全体としての次への課題は、一つ目は分析内容をさらに詳細にすること。二つ目は自分の担当以外の箇所の分析報告を受け、多角的な視点で担当箇所の分析を見直すことである。
    (文学研究科歴史地域文化学専攻修士1年 中川理絵)


  • 第14回 7月20日

    担当教員:佐々木亨

     調査報告をまとめるため、調査協力者の属性など基礎情報をまとめる班、行動を分析する班、インタビューのコメントを分析する班に分かれて、前回の報告で明らかになった分析課題に取り組んだ。


  • 第15回 7月27日

    担当教員:佐々木亨、湯浅万紀子

     前回に続いて、各班に分かれて分析作業のまとめを行った。今後は各班からのレポートをまとめて、分析報告として不足があればそれを補い、博物館に報告する。


  • 第16回 9月1日

    担当教員:佐々木亨、湯浅万紀子

     各班の代表者が教員の指導のもと、報告書の改訂を重ね、博物館の会議で報告を行った。リニューアルにより、科学技術展示室の滞在時間やストップポイントは大幅に増えた。その一方で、展示物やパネル、補足資料に十分に時間をかけて向き合っている来館者は少なく、課題は残っている。博物館の教員からは、科学技術展示室を展示制作や展示評価の実験の場として利用し、対照実験を行ってはどうかとの意見をいただいた。これまで同一モニターによる追跡調査は実施したことはあるが、今後検討すべき点である。


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